視覚障害者が生計に困らないよう、国は視覚障害のない人のためのマッサージ師養成学校の新設を制限できる−−。53年前にできたこの法律の規定を、大阪の学校法人が「憲法違反だ」として国を提訴した。学校側は「当時よりも視覚障害者の雇用は改善された」と主張。これに対し、危機感を抱く視覚障害者らは「制限がなくなれば生活が成り立たなくなる」と訴える。【伊藤直孝】引用元:毎日新聞
昨年12月、東京地裁103号法廷にある約100の傍聴席は、白杖(はくじょう)を手にした視覚障害者と付き添いの人で埋まった。盲導犬を連れている人の姿もあった。裁判は関西などで医療系大学や専門学校を運営する平成医療学園(大阪市)と福島県の系列法人が昨年7月、養成学校新設を認めなかった国の処分の取り消しを求め、東京、大阪、仙台の3地裁に起こした。視覚障害者は当事者ではないが、各地裁で裁判を傍聴している。
視覚障害者は国家資格を取得してマッサージ師として働くことが多い。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師(あはき師)について定めた「あはき法」19条は、視覚障害者の生活が著しく困難にならないよう、国は障害のない人のためのマッサージ師養成施設の新設を「当分の間、承認しないことができる」と規定。健康ブームの影響もあり、新設制限のないはり師、きゅう師の学校はこの約20年間で7倍に急増しているが、障害のない人が通えるマッサージ師養成施設は約20カ所と半世紀変わっていない。
学校側は訴訟で「障害者の雇用環境はかなり改善した。19条は学校設置者や障害のない人の職業選択の自由を制限している」と主張。養成先が増えないことで無資格業者が増え、逆に視覚障害者の生活困窮を招いているとも訴える方針という。
一方、日本盲人会連合(日盲連)などによると、重度障害者の新規就職先の7割をあはき師関連が占め、現在も重要な生計手段になっている。一方で、あん摩マッサージ指圧師の2015年度の国家資格合格者1422人のうち視覚障害者は307人(21%)にとどまり、障害のない人が既に高い割合で参入している。
当事者が危機感を抱く理由はもう一つある。国家資格である柔道整復師の養成施設新設を巡り、国の指定を受けられなかった業者が国に取り消しを求めた行政訴訟では、1998年に「参入の自由が認められるべきだ」とした国側敗訴の判決が確定。その後、柔整師養成施設は設置ラッシュとなり、18年間で8倍に増加した。日盲連など約15の当事者団体は「国の裁量権の範囲内の規制だ」と主張する国側を支援していくことにしている。
◇「僕らにはこれしか仕事がない」
「視覚障害者の仕事は今なおマッサージ関連職種に依存している」。毎日新聞東京本社には、学校側の主張に反論する視覚障害者からの点字郵便が500通以上届いた。埼玉県川口市の治療院に勤務する松本康寿(やすとし)さん(42)が取材に応じ「僕らにはこれしか仕事がない」と不安な思いを語った。
「背中も硬くなってますね」。松本さんは来院した女性(68)の背中や肩を両手でもみ、語りかけた。施術料は1時間5000円。膝に持病があるという女性は「ここでは月1万円まで使う。自分へのご褒美です」と笑顔を見せた。
視覚障害1級の松本さんは盲学校の同級生と2012年4月から治療院で働く。当初は月約9万円の売り上げだったが、リピーターを増やし現在は月100人前後が来院する。それでも月の売り上げは約40万円。光熱費や家賃を引くと1人当たりの手取りは15万円に届かない。
しかも、最近は国家資格を持たない人が働くリラクセーション店や、医師の同意なしに医療保険を適用できる柔道整復師による接骨院などが増え、競争激化により施術単価が落ちている。松本さんは「障害のない人のための学校が乱立すれば生活は成り立たなくなる」と強調した。
松本さんを盲学校で指導した全日本視覚障害者協議会理事の東郷進さん(66)は「彼の治療院は良い方で、週に来院者が10人未満の治療院もたくさんある。制限撤廃は時期尚早だ」と訴える。
【ことば】あん摩マッサージ指圧師
治療のために手で患者の体をもむ、押す、たたく、さするなどの行為を仕事として行う国家資格保持者。高校卒業後、医学や栄養学、実技などを国指定の養成施設で3年以上学んだ後に受験資格が得られるが、視覚障害者には中学卒業後に盲学校で養成課程が受けられる特例がある。はり師、きゅう師とは別の資格だが3資格をまとめて取る人が多い。就職先は治療院のほか、介護施設、企業、病院などがある。
2017年2月5日日曜日
<マッサージ師学校>新設制限は違憲か 法人が国を提訴
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